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江戸春さんのこと 第2章

2021/11/08
雑記

音読の動画の続きをUPしました。読み間違いがあったり、後ろでゆずがカツカツ爪を噛んでいたりしますが、ご愛敬。設定から字幕をオンにするとテキストが表示されます。

第1章はこちらから。

江戸春さんのこと 第2章<山口嘉平>

千石船の船頭は、気の荒い船子達を束ねるだけでなく、回船問屋の手代としての役割も重要だった。 母は「角石の主・嘉平様のおっしゃる事だけを守って。」と何時も言う。 若くして商取引のセールスマンも兼ねる船頭はうまい話に飛び付き易い。 美味そうな話には、決して手を出すなと。

嘉助はそれを守っているだけである。 江戸へ出れば出る度、珍らしい物がある。 そんな物も扱ってみたい。 今、山の木を売り込めば、大口の儲けになる等。 思わない事は無いのだが、村一番の智者でもある主・嘉平様の言い付けだけを聴いて来た。 抑える事も覚えた。

それが他の若者達と違う処なのかも知れない。

嘉助船頭の船が戻って来ると村は大騒ぎである。 主・嘉平様の言い付け通りに売り、仕入れた物は大きな収益を挙げ、料亭は貸し切り、芸者達も総上げの宴会が開かれる。 村人達はお祭りのように欲しい物を選ぶ。

嘉助は今回初めて嘉平様に進言した。 浅草海苔を扱ってはどうかと。 近隣には海草の採れる浜はいくらもある。 高価な浅草海苔をどうして?

主・嘉平様はじっと嘉助を見やりながら、「良いだろう。」と言った。 この若者の意慾を潰してはならない。

次に千石船が江戸に着くのは半年先になる。 船子達を休ませ、家族との時間を楽しませてやる事も大切。 次の積荷の用意、仕入れる物の選択、主の嘉平や船頭の嘉助はそれなりに忙しいが、嘉平は久し振りに妻と、足の悪い娘を伴って江戸に歌舞伎見物に出掛ける事にした。

陸路、東海道を駕篭で行くのである。 通しの駕篭で道中を楽しみながら、又、嘉平は世の中の動きを知る為に。

足の悪い娘には伊豆の東府屋で長い湯治もさせたが足は治る事はなかった。 が、娘は賢こかった。 他の弟妹達を置いて、伊豆一番の温宿に母と二人、長湯治させてもらえる事に感謝し、優しい人柄に育った。 田舎娘には珍しく、江戸の歌舞伎座で本物の芝居を楽しんだり、江戸前の料理も覚えた。 嘉平はその間に江戸の経済を調べていた。

村には回船問屋は何軒も有ったが、角石の千石船が待ち望まれ、嘉平は質草を預る為の石倉を建て増すのにも忙がしい程であった。

さて、今回の江戸行の隠れた目的は、浅草海苔問屋の内壮である。 嘉助まかせで嘉助に全責任を負わせる気はない。 主として確認が必要である。 そして、店の信用、娘の存在も知った。 後は嘉助の覚悟を待つだけである。

半年後、嘉助は焼津一番の鰹節を手土産に海苔問屋を訪れた。 商談は円滑に運び、嘉助は頭を低くして、「娘さんを戴きとうございます。」と申出た。

千石船の船頭とはいえ、江戸浅草に店を構える問屋とは格が違う。すぐ返事が貰える訳がない。 半年毎に申出を繰り返した。

春はそんな事は知らない。 姫君のお越入れの支度はゆったりと調えられて行き、姫様は春が付いて来てくれると思い込んでおおらかに婚礼の日をお待ちの様子なのである。 春もそうなるであろう事を受け入れ始めていた。

つづく。

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